この記事では、偽札や偽造通貨が多いジンバブエドルのフェイク品の見分け方を、 中東・アフリカを中心としたマイナー外国貨幣、アンティークコイン専門店Saladinの鑑定スタッフが解説します。
100兆ジンバブエドルはコレクター紙幣としての人気が高まり相場が上がるに連れて、偽造品や偽札なども出回るようになりました。
100兆ジンバブエドルは当店でも販売しており、この記事は当店でご購入された方向けのご案内として作成したチェック事項のマニュアルをベースにした記事となります。他店でご購入された方からの鑑定のご依頼を多数頂いており、偽造品をご購入された方も多かったので、他店でご購入された方もご自身である程度真贋鑑定がつくように、誰でも閲覧できるよう情報公開させて頂くことにしました。
まずフェイクの2パターンを解説し、その次にジンバブエドルの印刷技術のレベル等について解説します。これらは読み飛ばして頂いても構いませんが、ジンバブエドルの当時の印刷技術や紙の質について理解する事は真贋鑑定への理解が深まりますので出来れば軽くでも良いので目を通していただければ幸いです。
そして最後に本物の100兆ジンバブエドルを見分けるポイントと、注意しないといけない点について解説するのが本記事となります。
偽物は2パターン
ジンバブエドルのフェイク品は大まかに2パターンに分けられます。
1.「記念紙幣」として売られているパターン
2.本物の100兆ジンバブエドルを似せて作った、いわゆる「偽札」
それぞれ解説していきます。
「記念紙幣」として売られているパターン
こちらは例えば実際には存在しない100京ジンバブエドルや、100兆ジンバブエドルのゴールド札・シルバー札といわれている物などです。
これらはもちろんジンバブエ準備銀行傘下の証券印刷会社Fidelity Printers and Refiners(以下FPR)が製造したものではなく、『ジンバブエドルを入手したいが、適切な知識がない』方々に売りつけるために、多くは中国で、現在も刷られ続けています。
強烈なインフレに襲われていたジンバブエドルには紙幣の種類が多く、さらに桁数も多いのに青・赤・緑系の色しかなく、裏面のデザインも低額紙幣のものを流用しただけという雑さ(後述)なので、見分けが付けづらいです。さらに同時期に通貨同等品として流通していた無名小切手「アグロチェック(agro-cheques)」などもあるため、そもそもその紙幣が公式に存在しているのかということを確認する事から始める必要があります。
そんな心理をついたのが、100京ジンバブエドルといった「ありそうだけど実際には存在しない」フェイク紙幣です。
これらの「記念札」「記念紙幣」として売られているものは、すべてジンバブエドルではありません。これらはコレクターにとってなんの価値もない紙くずですので、購入しないようにご注意ください。
本物の100兆ジンバブエドルを似せて作った、いわゆる「偽札」
先程の記念紙幣はわかりやすいですし、存在しないものですので調べればすぐわかりますが、こちらは純粋な偽札です。
こちらはUVでなければ見抜けなかったりしますので、購入には十分注意が必要です。ネット上で市場調査を行っていると、「これはジンバブエの現地に行ってもこの値段では仕入れられないよな」といった価格の出品があったりしますので、安すぎる商品は必ず注意した上で購入するようにしましょう。
この記事の後半を見れば、よほど精巧に作っていない限りは見抜けると思います。
最高紙幣なのに雑な印刷となっている理由
本物の100兆ジンバブエドルの特徴を解説する前に、事前知識として一つ解説しないといけないことがあります。
それは、100兆ジンバブエドルは2000年代に製造された、その国の最高額紙幣としては非常に質が悪いということについてです。最近では丈夫なポリマー(プラスチック)紙幣を採用する国も多い中、100兆ジンバブエドルでは非常に質が悪い紙を使用し、多くの紙幣に採用されている「縦に入っているホログラムのセキュリティスレッド」や、透かしすらないのが100兆ジンバブエの特徴です。
では、なぜこんなことが起こったのかを解説していきましょう。
経済制裁によりドイツの印刷所が使えなくなり、紙の輸入も止まった
ジンバブエでは、前身の国であるローデシア時代からドイツのG&D(Giesecke & Devrient)という紙幣や証券の印刷会社と懇意であり、1980年にローデシアからジンバブエになってもその関係性は変わりませんでした。
しかし独裁者であるムガベ大統領への懸念から各国はジンバブエに対して経済制裁を行っており、ドイツ政府からの正式な要請と、欧州連合(EU)および国連による国際的な制裁措置の要請を受け、G&Dは紙幣用紙の供給を2008年7月1日に停止しました。(*参考1)
1千ジンバブエドルまではドイツのG&D(Giesecke & Devrient)が提供していましたが、1万ジンバブエドル以降はジンバブエのFPRが自ら印刷することとなりました。そのためデザインすら使いまわしとなり、100兆ドルの裏面は1ドル札、50兆ドルは5ドル札、20兆は10ドル札と20ドル札から半分ずつコピーしただけとなります。
紙の供給が止まったため、セキュリティ面でもまともな国の紙幣とは言えない紙幣となり、自ら印刷することになった1万ドルでセキュリティスレッド(ホログラムの線)も廃止され、1000万ドル以降はついに透かしを入れる事もできなくなりました。
「最高額紙幣」として作られてはいない
通常の国家であれば為替レートが安定しているため、インフレ・デフレ率によって「ある程度の長期間使用する紙幣」という前提に基づいて、「最高額紙幣」は最高額の紙幣として偽造対策等のセキュリティをしっかりしたものを制作します。例えばアメリカドルも100ドルが一番しっかりしたものとなっていますよね。
ただ通常の国家ではなく、当時ハイパーインフレになっていたジンバブエではそのような発想をするような余裕はなく、デノミのタイミング次第では200兆ジンバブエドルや、1000兆ジンバブエドルを発行する可能性もあったわけです。
なので、この100兆ジンバブエドルは「最高額」という特別な紙幣として刷られていません。セキュリティ機能がこの額以下のジンバブエドルと同じであり、さらに裏側のデザインは1ドルの使いまわしという事実が何よりの証拠だと思います。
本物の100兆ジンバブエドルの特徴
では、前提条件を知っていただきましたので、実物の100兆ジンバブエドルの特徴を見てみましょう。
UV(ブラックライト)無しで確認できる事項から見ていきます。
金銅色の「RBZ」帯
表面中央よりやや左に、RBZという文字の金〜銅と言える色の帯が上下に伸びています。印刷技術が足りないため基本的には可読性の良い状態のRBZの文字の札はほぼ無いが特徴です。
概ねほとんどの紙幣では、はっきりとRBZと読めるものと、可読性の悪い謎の記号が交互に並んでいます。可読性の悪い方が完璧な状態のものを見かけたことが無いので不確定ですが、この記号はおそらく枠だけのRBZという文字です。
こちらの文字は後述のジンバブエバードと同じインクを使用していると思われるため、日光などのもとで紙幣や光の角度を変えると緑色に変化します。
そして、UVライトで確認すると青色に変化します。
なおこの帯の印刷は原則的には非常に質が低いため、マイクロスコープやスマホカメラの拡大状態で確認したときにこの帯が印刷のカスレもなく、線の太さも均一で、文字の印刷のカケもなく美しい状態であったら偽札を疑いましょう。
ちなみに、RBZはReserve Bank of Zimbabwe(ジンバブエ準備銀行)の頭文字を取ったものです。
透かしは無い
前述の通り、1000万ドル以降透かしすら廃止されましたので、100兆ジンバブエドルに透かしはありません。
100兆ジンバブエドルに透かしがあったらそれは偽札です。
また実際には存在しない「記念紙幣」である中国産の100京ジンバブエドルというものには透かしがあるため、Saladinにもそれらを所持されている方から「透かしが無いじゃないか」という問い合わせが度々ございますが、1000万ドル以降は透かしは廃止されているため100兆ドルにも透かしはございません。ご注意ください。
表面牛の左にある紋様に裏からライトを当てると100兆になる
前述の通り、100兆ジンバブエドルには透かしはないのですが、かろうじて透かしの代わりといえるものがあり、それが黒字のシリアルナンバーの左上にある欠けた卵のようなマークです。
こちらは裏からライトを当てると裏面の文様と合わせて100 000 000 000 000という数値が浮き上がります。
シリアルナンバーはハンコのような後付印刷
100兆ジンバブエドルのシリアルナンバーは現代的な紙幣と異なり、紙幣と一体化したような滑らかな印刷ではなく、明らかに後付の印刷で印字してあります。
またシリアルナンバーの印刷も雑で、英数字がかすれているものも多いですが、これが正常です。
シリアルナンバーはデコボコしている
左側赤色、右側黒色のシリアルナンバーはどちらも英数字の印刷に沿ってデコボコしています。
触ってみて凹凸を全く感じないのであれば、それは現代的な方法で印刷された可能性が高いということですので、偽物の可能性が非常に高いです。
写真はシリアルナンバー印刷部分の裏面です。では写真では分かりづらいですが、それでも少し盛り上がっているのがわかると思います。手で触るとはっきりわかります。
シリアルナンバーはAAから始まる
一般に流通している100兆ジンバブエドルは、シリアルナンバーが必ずAAから始まります。
ZAから始まるものもありますが、これは不良品があった場合に代わりに差し替えるためのスターノートと呼ばれるもので、ほぼ流通していません。
色の変わるジンバブエバード
表面右下には、ジンバブエの国鳥であるジンバブエバード(ジンバブエ鳥)が描かれています。通常正面から見た場合は金や銅のような色をしており、ラメが入っています。
紙幣の角度を変えるか、別の角度から光を当てるとこの色が緑がかった銅色へと変わります。この色の変化は光の角度によっては確認しづらいので、確認できない場合は辛抱強く角度を変えてみてください。
なおこのジンバブエバードは、UVを当てると青色に変化します。
ONE HUNDRED TRILLION DOLLARS 背景の「RBZ」の文字
表面左側、金帯の左部分の「ONE HUNDRED TRILLION DOLLARS」の背景記号の部分には細かい文字で「RBZ」と描かれています。
こちらは細かく肉眼ではほぼ確認できませんので、スマホカメラの拡大機能やマイクロスコープを使用してご確認ください。
絵のディティールが細かい
表面右側のチレンバ・バランシング・ロックスという重なった石や、裏面の牛、滝は非常に細かく印刷されています。
スキャンしてコピーしただけの偽札はこの辺りの印刷が潰れていることも多いので、ぜひ絵の細部が細かく印刷されているかを一度ご確認してみてください。
なお、こちらも肉眼では印刷が潰れているかの確認が難しいため、スマホカメラの拡大機能やマイクロスコープを使ってのご確認をおすすめします。
では、この後はUVライト(ブラックライト)で照らしたときに確認できる事項を見ていきましょう。
UVライトを当てた時の確認事項
紙幣全体が青色に変り、一部背景は黄色に変色する
UVを当てると、全体的に青色に変化します。
その際、表面中央からやや左と、裏側中央からやや右のオレンジ部分は黄色に変色します。
細かい繊維が光る
UVでの確認用に散りばめられた細い繊維が黄〜白色に発光します。
また、一部の繊維は青白い光を放ちますが、黄の繊維に比べると光は弱めとなります。
シリアルナンバーはオレンジ色と黄色に光る
表面左側、赤色だったシリアルナンバーは強めのオレンジ色へと変化します。
右下の黒色だったシリアルナンバーは黄色に変色しますが、左側のオレンジ色と比べるとやや光は弱くなります。
なおプロ用の鑑定用UVでチェック・撮影しておりますので、家庭用ですと、どちらも強く発光せずに明るさになる可能性もあります。
RBZの金帯と、右下ジンバブエバードは青色になる
表面中央左にあるRBZの文字が印字された帯、ならびに右下シリアルナンバーの上にあるジンバブエバードは青色に発色します。
UVを当てても動物は浮かび上がらない
ジンバブエドルの高額紙幣でUVによって牛が浮かび上がるのは10兆ジンバブエドルのみです。それ以外の紙幣はシンボルに関しては一切光りません。
なぜ10兆ジンバブエドルだけ光るのかは不明ですが、500億から一気に桁数を上げた10兆ジンバブエドルを気持ちしっかりと作った最高額紙幣にして、インフレを止めるという一縷の望みがあったのかもしれません。
いかがでしたでしょうか
専門店であるSaladinによる知識を惜しみなく公開したので、ぜひお手元のジンバブエドルを実際に見ながらチェックしてみてください。
最後に宣伝のようになってしまい恐縮ですが、当店では間違いなく本物の紙幣を販売しております。
きちんと知識を持った鑑定人が鑑定したジンバブエドルのみを販売しておりますので、偽物を掴まされないかご心配な方は、ぜひSaladinでのご購入を検討してみてください。
商品ページ:【ジンバブエ】100兆ジンバブエドル
参考:
1.Giesecke & Devrient Halts Deliveries To The Reserve Bank Of Zimbabwe